長い時間を経て、北の厳しい環境の中で狩猟生活を行い、森羅万象を敬いながら独自の生活様式や文化を創り上げてきたユーコンの先住民(ファーストネーション)。自然と共にあるそのライフスタイルは、環境保全やエコロジーといった観点からも学ぶべきことは多く、都市の生活を送る人々にも大きな刺激を与えてくれます。

ユーコンの先住民 ~ 北の大自然と共存してきた、たくましき人々

カークロスの文化センターHaa Shagóon Hídi
(Photo: Peter Mather Photography)

テスリンの先住民フェスティバル
(Photo: Enviro Foto)

2万年近くも前の氷河時代、北米とユーラシア大陸はベリンジアという陸橋でつながっており、多くの人がこれを渡って北米へと移動し、定住したといわれています。それが、今もユーコン各地に暮らす先住民の先祖。現在、ユーコンの全人口約4万人のうち、25%ほどを先住民が占めています。大きくは8つの言語民族のグループがあり、さらに地域に分かれて14の部族団体を形成しています。
これら先住民部族団体は、カナダ政府と協定を交わし、自治政府の元、独自の土地で独自の規則を持ち、将来のよりよい生活に向けて環境を管理する努力を行っています。

悠久の時間を経て培われてきた自分達の文化を維持していく事は、彼らにとって大きなミッションです。伝統継承のため、それぞれの文化センターを運営し、先達の知恵を学んだり、昔ながらのフェスティバルを開催したりといった活動を行っている部族も少なくありません。また部族によっては独自のツアーを主催し、積極的に旅行者を歓迎するなど、多くの人に理解を深めるための試みも行われています。

ゴールドラッシュと先住民の関わりを伝える「トロンデック-クロンダイク」が世界遺産に

ドーソン・シティ以北の一帯は、2023年9月、「トロンデック-クロンダイク」としてユネスコ世界遺産に登録されました。ここは、古くから先住民トロンデック・フェッチン族の人々が暮らしてきた土地で、19世紀後半にドーソン・シティで起こったクロンダイク・ゴールドラッシュにより大きな影響を受けました。世界遺産には、先住民の生活環境の未曾有の変化と、それに対する適応、先住民族と入植者の交流などといった、ゴールドラッシュ時の様々な側面を示す跡地や場所、8エリアが含まれます。

14の部族団体~個性豊かな文化センターへの訪問も可能

1
カークロス/タギッシュ・ファーストネーションCarcross/Tagish First Nation
(タギッシュ語族、トリンギット語族)

中心地

カークロス

文化センター

トーテムポールなどで彩られた文化センターHaa Shagóon Hídi(我ら先祖の家)で、大小のイベントやフェスティバルを開催。アートや伝統文化の展示スペースも併設しており、旅行者が参加できるイベントもあります。

Haa Shagóon Hídi (Photo: Enviro Foto)
2
シャンペン・アンド・エイシャック・ファーストネーションズChampagne and Aishihik First Nations
(サザン・タッチョーネ語族、トリンギット語族)

中心地

ヘインズ・ジャンクション

文化センター

Da Kų Cultural Centre(我々の家)では、この地の人々の歴史と文化、アートを展示しており、旅行者も自由に見学が可能。ギフトショップも併設。また事前予約により、内部ツアーをはじめ、伝統的な歌やダンスのショーの鑑賞もできます。

Da Ku Cultural Centre
3
ファーストネーション・オブ・ナチョ・ナイアク・ダンFirst Nation of Na-Cho Nyäk Dun
(ノーザン・タッチョーネ語族)

中心地

メヨ

4
クルアニ・ファーストネーションKluane First Nation
(サザン・タッチョーネ語族)

中心地

バーワッシュ

5
クワン・リン・ダン・ファーストネーションKwänlin Dän First Nation
(サザン・タッチョーネ語族、タギッシュ語族、トリンギット語族)

中心地

ホワイトホース

文化センター

ユーコン川の畔に建つKwanlin Dün Cultural Centreでは先住民アートや伝統文化を紹介する展示室を併設。旅行者も参加可能な先住民文化プログラム、イベントを実施。

Kwanlin Dün Cultural Centre
6
リヤード・ファーストネーションLiard First Nation
(カスカ語族)
7
リトル・サーモン/カーマックス・ファーストネーションLittle Salmon/Carmacks First Nation
(ノーザン・タッチョーネ語族)

中心地

カーマックス

文化センター

文化センターTagé Cho Hudän Interpretive Centreの建物の内部・外部で、ムースの皮を使ったボートや伝統的住まいなど、先住民の文化と歴史を紹介する様々な展示が見られます。ガイドツアーも予約可能。

Tagé Cho Hudän Interpretive Centre
8
ロス・リバー・デナ・カウンシルRoss River Dena Council
(カスカ語族)

中心地

ロス・リバー

9
セルカーク・ファーストネーションSelkirk First Nation
(ノーザン・タッチョーネ語族)

中心地

ペリー・クロッシング

文化センター

ユーコン川の畔、19世紀の毛皮交易所「フォート・セルカーク」という史跡内に文化センタ-Big Jonathan Houseがあり、伝統的な建物やライフスタイルを紹介。アートや工芸品なども多数展示。アーティストの実演も見られます。

10
タアン・クワッチャン・カウンシルTa’an Kwäch’än Council
(サザン・タッチョーネ語族)
11
トロンデック・フェッチン・ファーストネーションTr'ondëk Hwëchin First Nation
(ハン語族)

中心地

ドーソン・シティ

文化センター

文化センターDänojà Zho Cultural Centre の2つのギャラリーで、様々な資料を展示。先住民ガイドがその生活様式を説明するアウトドアウォーキングツアーをはじめ、ハーブティーの味見や、伝統的な音楽鑑賞などのプログラムも充実。ギフトショップ併設。

Dänojà Zho Cultural Centre
12
テスリン・トリンギット・カウンシルTeslin Tlingit Council
(トリンギット語族)

中心地

テスリン

文化センター

テスリンレイクの湖畔に文化センターTeslin Tlingit Heritage Centreがあり、トーテムポールをはじめアート、クラフトなどを展示。ガイドツアー、伝統芸能や工芸のデモンストレーション、バノック(先住民のパン)の味見などを楽しめます。ギフトショップも併設。

Teslin Tlingit Heritage Centre
(Photo: Enviro Foto)
13
ホワイト・リバー・トリンギット・ファーストネーションWhite River Tlingit First Nation
(アッパー・タナナ語族)
14
ブンタット・グウィッチン・ファーストネーションVuntut Gwitchin First Nation
(グウィッチン語族)

中心地

オールド・クロウ

文化センター

ユーコンでも唯一北極圏にある集落オールド・クロウに、この極北の地で暮らしてきた人々のライフスタイルを紹介する文化センターJohn Tizya Centreがあります。この地を大移動するカリブーの群れについての展示も充実。アクセス方法は飛行機のみとなります。

John Tizya Centre

ツアー&アトラクション
~アウトドアからアートまで、ユニークな体験を

カークロス・コモンズ(Photo: Enviro Foto)

ジョージーズ・オールド・クロウ・アドベンチャー
(Photo: Josie's Old Crow Adventures /Tomohiro Uemura)

場所:カークロスカークロスの町の中心にある総合施設で、先住民文化をテーマにしたアートセンターやギフトショップなどが充実。先住民が開発したマウンテンバイクト レイルのインフォメーションもあり、バイクレンタルなども可能。

場所:ドーソン・シティユーコン川をクルーズし、川に設置した伝統的なフィッシュホイール(捕魚輪)の見学をはじめ、周辺の大自然を探訪。水路を重要な交通網として使ってきた先住民文化に触れることができます。

場所:オールド・クロウ先住民によるツアー会社が、北極圏の冒険ツアーを催行。犬ゾリやカヌーなどを駆使し、彼らと大地との繋がりを実感できるような体験を提供しています。

場所:ロス・リバー先住民の彫刻家が営むクラフトワークショップで、彫刻、ドラム作り、ジュエリー作りなどを直接学ぶことができます。またホームステイし、伝統的な料理を味わうことも可能。

場所:シャンペン大自然の中に伝統的な先住民集落を再現し、クラフト作りや料理など文化体験ツアーを行っています。キャンプも可能。

場所:クルアニ・レイク大自然の中での先住民文化体験やクラフト作りなど、ユニークなプログラムを提供するキャンプ場。夏はフィッシング、冬はオーロラ鑑賞などアウトドア体験も充実。

場所:ペリー・クロッシングボートツアーや史跡フォート・セルカークのガイドツアーなどを通じて、この地の先住民の文化と歴史、ゴールドラッシュとのかかわりなどを探訪できます。

主要フェスティバル&イベント
~華麗なダンスパフォーマンスは必見!

ムースハイド・ギャザリング(Photo: Shayla Snowshoe)

アダカ・カルチュラルフェスティバル
(Photo: Adäka Cultural Festival / Alistair Maitland Photography)

場所:ユーコン準州全体開催日:毎年6月21日カナダ全土で祝う「先住民の日」で、その文化や歴史をたたえるイベントを開催。ユーコン各地でも華やかなお祭りが見られます。

場所:ヘインズ・ジャンクション開催日:奇数年の6月中旬ユーコンをはじめ、近隣州の先住民ダンサーなどが集結。伝統工芸などのワークショップも開かれ、様々な体験的アトラクションも行われます。

場所:カークロス、テスリンなど開催日:6月中旬トリンギッド語族のお祭り。各地で民族芸能のライブパフォーマンスをはじめ、工芸品のワークショップ、アートマーケット、カヌーイベントなどが3日間にわたり開催されます。

場所:ホワイトホース開催日:毎年6月末~7月頭ユーコンの14部族をはじめ、世界各地から先住民が集まり、音楽や踊りのほか、様々なパフォーマンスが繰り広げられます。

場所:メヨ開催日:7月1日近隣の先住民ミュージシャンやアーティストが集まり、パフォーマンスを披露。ローカルのアーティストと直に触れあうことができる人気イベント。

場所:ドーソン・シティ開催日:偶数年の7月下旬ダウンタウンからユーコン川を5㎞ほど下ったところにある、昔ながらの先住民集落ムースハイドが会場。カナダ・北米全土の先住民が集結し、ドラムやダンスなどで盛り上がります。

場所:ホワイトホース開催日:11月ユーコン・アートセンターで開催される恒例音楽イベント。世界各地の先住民アーティストが参加。ブルーフェザーとは「希望」の象徴とされ、若い才能をサポートするのがゴール。

先住民アート~ユーコンの大自然が伝わってくる作品を旅の記念に

ビーズワーク(Adäka Cultural Festival / Fritz Mueller Visuals)

カービング(Photo: YG/Cathie Archbould)

ユーコンの先住民にとって、アートは生活に密着した文化の一つといえます。自然と共存してきた彼らは、動物や植物など自分達がおそれ敬い、また糧としてきたもののモチーフを身の回りの様々なものに取り入れ、その畏怖の念を表現し、ときにお守り用として大切にしてきました。家族のアイデンティティを示すトーテムポール、セレモニーなどで身につけるヘッドドレスやマスク、さらにはビーズワークのモカシンや小物入れなど、あらゆる物に自然崇拝の心が映し出されています。
ユーコンでは、先住民の自立手段の一つとしてアーティストの養成も積極的に行なわれており、ユーコン大学にも先住民アートのプログラムが開設されています。若いアーティストも次々と登場しており、その才能は様々な分野に発揮され、伝統芸術はもちろん、優れたモダンアートも生み出されています。
NPO団体Yukon First Nations Culture & Tourism Association(ユーコン先住民文化・ツーリズム協会)では、公式ウェブサイト「INDIGENOUS YUKON」内に「ART TO EXPLORE」というページを設け、先住民アートやアーティスト、作品の販売場所についてなど、詳しく紹介しています。

神秘的な意味を持つ、動物モチーフ

旅のお土産に、動物モチーフのジュエリーやクラフトなどは人気があります。先住民にとって動物たちは、ときに精霊の使いであり、またときには方向性を示す神秘的な存在です。それぞれが象徴するものは地域や民族によっても異なりますが、いくつか代表的な例をご紹介しましょう。

  • ・ワタリガラス:創造力・創作力・協調性・粘り強さと調和
  • ・クマ:強さ・家族・活力と勇気
  • ・ワシ:重要性・支配・創造者に近い存在
  • ・ビーバー:知識・威信・未知・複雑な自然
  • ・オオカミ:忠誠心・家族の絆・コミュニケーション・知性
  • ・サーモン:豊かさ・豊穣・繁栄と刷新
カラスをモチーフにしたネックレス(YFNArts.ca /Artist: Dennis Shorty)

トリビア~先住民にまつわる、ちょっとユニークなお話

金を発見し、故郷に貢献したスクーカム・ジム

19世紀後半、ドーソン・シティで最初に金を発見し、ゴールドラッシュの引き金を引いたのは、アメリカ生まれのジョージ・カーマックと、彼のカナダ先住民妻の兄弟であるスクーカム・ジム、ドーソン・チャーリーの3人でした。未開地での探索に先住民の知恵が大きく役立ったことは想像に難くありません。
ちなみにスクーカム・ジムは、金発見により財を成した後、故郷近くのカークロスで信託会社を設立。地元タギッシュ族の経済安定に貢献しました。カークロスには彼の住んでいた家「スクーカム・ジム・ハウス」が再現され、歴史博物館として公開されています。

スクーカム・ジム・ハウス(Photo: Hans G Pfaff)

二つの文化の懸け橋となった穏やかな賢者、チーフ・アイザック

ゴールドラッシュ時、ドーソン・シティには一獲千金を求めて4万人もの人が押し寄せたため、もともとこの地域で狩猟生活をしていた先住民ハン族の暮らしは大きな影響を受けました。急激な変化の中で翻弄される人々を救ったのは、民族の長であるチーフ・アイザックでした。彼は、仲間をユーコン川下流のムースハイドに移住させ、伝統的な食料や暮らしを確保。穏やかながらも確固たる外交手腕を発揮し、町にやってくる人々と新しい文化を受け入れながらも、自分達のコアな部分を守ることに尽力しました。先住民の人々を20世紀へと導いた立役者として、現在も尊敬されています。

現在のムースハイドの集落(Photo: Enviro Foto)

伝統の味が通販サイトでも話題に!トリーソウおばあさんのバノック

「バノック」とは北米先住民が作る伝統的なパンのこと。地域によって様々なレシピがあります。中でも今大人気となっているのが、「Grandma Treesaw's Yukon Bannock」というミックスパウダー。これは、テスリンの町に住むトリーソウさんという女性が、トリンギット族に代々伝わるレシピで作ったもの。水を加えて焼いたり揚げたりするだけで、おいしいバノックができあがるという便利な製品です。元々、親族間でおいしいと評判だった彼女のバノックは、やがて地元イベントなどで人気の味に。そして町のマーケットでもミックスパウダーが売られるようになり、ついには大手の通販サイトでも販売開始。今では北米全土で楽しめるようになりました。日本ではまだ購入できませんが、カナダ旅行の際、スーパーで探してみてはいかがでしょうか。

テレサ・トリーソウさん
(Photo: Grandma Treesaw’s Bannock)

先住民が株主のエアライン「エア・ノース」

エア・ノースは、ホワイトホースをハブ空港として、ユーコン準州北部やノースウエスト準州、さらにはカナダ主要都市をネットワークしている航空会社です。このエアラインのユニークな点は、株主が100%ユーコン人であること。その中心となっているのは、オールド・クロウの先住民部族団体が運営する「ブンタット・デベロップメント・コーポレーション」という会社です。同社は、エア・ノースの他にも、道路建設や不動産、エコツーリズムの会社などを傘下に所有。自分達の伝統文化や自然環境を維持しつつ、ユーコン北部の経済を発展させることを目指しています。ちなみにエア・ノースは、同部族団体の拠点であるオールド・クロウにも定期便を運航。北極圏にあり、人口200人ほどのこの村には、他の地域との間に道路が通じていないため、空路が唯一の交通手段。地域の物資輸送や人の移動に、大いに貢献しています。

(Photo: Government of Yukon)

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